最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)537号 判決 1965年12月21日
上告人
折爪産業株式会社
右代表取締役
近藤重郎
右訴訟代理人
大川修造
永井一三
被上告人
小保内きよゑ
右訴訟代理人
八島喜久夫
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人大川修造、同永井一三の上告理由第一について。
原判決(引用の一審判決を含む。以下同じ)。は、本訴立木譲渡担保ならびに代物弁済契約が原判示の理由により無効であるから、被上告人先代亡小保内松次郎は本訴立木の所有権を取得するにいたらなかつた旨判断しているのであり、上告人の所論主張については判断する必要のないことが明らかである。従つて、原判決に所論の違法はないから、論旨は採用できない。
同第二について。
論旨は、被上告人の権利濫用の抗弁を容れて上告人の反訴請求を棄却した原判決は権利濫用の法理の解釈適用を誤つたものであるという。しかし、上告人および被上告人先代亡小保内松次郎間の原判示消費貸借契約に伴い本訴立木譲渡担保ならびに代物弁済契約が締結された経緯、右契約の履行をめぐる右当事者間の交渉の経過、被上告人が本訴立木の伐採および製炭をなすに至つた事情等について原判決がその挙示の証拠により確定した事実関係に照せば、本訴立木譲渡担保ならびに代物弁済契約が無効のゆえに上告人が依然として本訴立木の所有権を保有するとしても、被上告人の右立木伐採を理由に上告人から被上告人に対して損害賠償を求めることは信義誠実の原則に違反し権利の濫用として許されない旨の原審の判断は、是認することができる。論旨は、ひつきようするに、原審の認定にそわない事実をもあわせ主張して、原審の適法にした証拠の取捨判断ないし事実認定判断を非難するに帰するものであつて、採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(下村三郎 五鬼上堅磐 横田正俊 柏原語六 田中二郎)